振り返ると、やっぱり。

吹雪の中でも輝く雄々しい金の巨体をわたしにすり寄せる九尾様が、細い目にわたしを写した。
収穫時の稲穂と同じ、太陽の光に満ちるように暖かい瞳。

「愛しい娘よ。これはお前のモノにしよう。お前が好きにしてよいぞ」

九尾様は、死んだわたしを憐れんで、雪女として生かしてくれた。

それ以来、九尾様はわたしのことを実の娘のように扱ってくれている。

ちょっと奔放で突飛だけれど、豪快で優しくて、いつもわたしを良くしてくださる。

…でも、これは正直理解が出来ない。

わたしが人を嫌っていることは、誰よりも知ってらっしゃるはずなのに

「なぜ、わたしに?」

九尾様は鼻に皺をよせて笑う仕草をした。

「可哀想に、孤独と雪に埋もれて死にかかっているとは、なんともお前によう似とる。が、お前を否定し追い出し殺した…憎むべき人の子でもあるわけだ」

…。

「同情して救うもよし。怨みをはらして殺すもよし。…お前がここにきて400年。未だ人っ子ひとりも殺しておらぬではないか。己の心にけじめをつけよ」

九尾様はそこまで言うと、みんなを引き連れて戻って行った。

「九尾殿が言うなら致し方無い。雪女が殺すのならそれも見ものよの」

「つまらぬ。せっかくのご馳走が」

「しかし、あれは身が少なそうじゃ」

それぞれ愚痴を零しながら、ぞろぞろと散っていく。


…残ったのは、三つ子の小鬼とわたしだけ。

そのうちの、紅がわたしにそっと訊いた。

「ゆきんこ。どうするだ?」

男の子をみる。

肌は青く、今にも死んでしまいそう。
それはもう、あの日の死に際のわたしとまるで同じように。

放っておけば死ぬのでしょう。
あの日のわたしもそうだった。

…確かに、人間は憎い。

それはもう、この手で血の一滴、足の爪先まで氷付けにし紅蓮地獄にしてやりたいほど。

けど…。


躊躇いながら、でも、小鬼達には悟られないように背中を向けて男の子の身体を起こす。

「紅、蒼、翠。悪いけど、手伝って」


「「「…んだ!!」」」

小鬼達は、無邪気に笑った。