「ふ、わあぁ…。ん、ハルキ…?」

あ。雪が起きた。

「おはよう、雪」

「お、はよう」

寝起きの雪なんて初めてだ。調子が狂うのか寝ぼけているのか返事かぎこちない。
でも返してくれるところが律儀で可愛いよな。

「ゆきんこーっ!」

「おはおはー!」

「おら達と遊ぶだー!」

小鬼達は瞬時に変化を解くと、勢いよく雪に抱きついた。

なんつーか、小鬼達って雪に異常になついてるな…。

「きゃっ。もお…なんなのよ?」

てか、雪の着物が寝ていたせいか、胸元がはだけていて、豊かに膨らむ胸が。

しかも太もも見えてるし…白くて細くて、でも案外柔らかな曲線を描いている。
着物だから普段は全く見えない事もあって背徳的なものを見ているような…
率直に言おう。エロい。

なに、この見えそうで見えない際どい感覚。

ていうか雪着物だし下着つけてなくね…?

寝起き。下着なし。はだけてる。着物(脱がせやすい)。

オレは今何かを試されているのか?思春期真っ盛りの男には結構辛いぞ?理性と本能の間をグラグラ行ったり来たりしてるのだが。

小鬼達がいるおかげで、何とか理性が勝ってはいるけど。
オレの心を読んだのか、雪が不審者を見る目でオレを見てきたのは気にしないでおこう。

「ねーねーゆきんこ。菊村って誰だ?」

「菊村のこと教えるだ」

「カツ丼出すから教えるだよ」

「って、直球!?」

にしてもストレート過ぎるだろ!

案の定、雪の顔が硬くなってるし…!

「…なぜ、菊村の名をわたしに訊くの?」

…あれ。

「ああ、それはゆきん-むぐっ!」

紅の口を片手で塞ぐ。

「…話して、くれんのか?」

「…。もう何百年と前の話だし…それに、わたしが『雪女』になった根元の話でもあるから…」

雪の紅い瞳が儚く揺れた。
寝起きだからか疲れた顔で、少し震えている声がいつもよりゆっくりだ。

「知らない、と言い切れないもの」

雪は…真面目過ぎる。

そんな顔されたら…、無暗に聞けないじゃないか。

「雪が嫌なら訊かねーよ?」

もどかしくて抱き締めた。

雪の細い身体が、折れてしまわないように。


「…いやじゃ、ない。ハルキになら…いいえ。ハルキには、言わなければいけないもの」