「…雪がおかしい」
「おかしいな」
「おかしいよね」
「おかしすぎ」
小鬼達に告げると、全くの同意が返ってきた。
いつもは能天気な小鬼達でも流石に心配らしい。嵐のように1箇所に留まって居られないこいつらが珍しくも雪の周りから動こうとしない。
ちらりと雪の方を見る。
「…ぅ……ん、すぅ…」
少し苦しそうな雪の寝顔…
菊村って奴の事を訊いた時からどうも様子が変だ。
何やっても反応が薄いというか、避けられてる気もする…し…
かまってもらえないのは寂しいが…それはともかく雪が寝てるとこ初めて見た。
貴重な雪だ。写メ撮っとくか…いや、嫌われたら立ち直れないからやめとこ。
…惜しいけど。
「なぁ、…そういえば妖怪って寝るのか?」
「あんまし寝ないだな」
「すごい疲れたら寝るけど」
「けど妖怪は元々疲れないだ」
即答。そして矛盾した回答。こいつらに期待したオレが馬鹿だった。
疲れないから寝ないけど疲れたら寝る…?妖怪の云う疲れる、は体力的なものでは無いのは分かるけど…
う~ん、つまり………つまり、雪、疲れてんのか…?
試しに頬をつんつんつついてみる。
「ん…っ。みゅぅ…」
不機嫌そうな声が返ってきた。
やべぇ…可愛い…!!
って、違う違う。
思考を戻そう。…そう、雪は菊村の名前を聞いてからおかしいんだ。
バックから古びた本を取り出してみる。
「菊村って、何者なんだよ…結局あの古くさい本も文字すら読めなかったし」
このナメクジが這ったみたいな文字…古すぎだろ!いつの時代だよ!
一縷の望みをかけて小鬼達に読めるか聞いてもみたが、やはり無駄だった。
つか、雪、絶対知り合いだろ!男だよな!昔の書物書いてる奴って男だろ!
「…ん、…菊、村…さま…」
「……!」
…。寝言。寝言ですか。
雪の夢の中に出てきてんのかよ、菊村。俺は出なくて菊村は出るのかよ。
しかも様ってなんなのマジなんなの。
「…お前らなんか知らねぇのか?菊村って野郎」
イラつく顔を隠す気もさらさらないまま小鬼達に問い掛ける。
「「「さあ?」」」
さあっておい…。
「前は酷い目にあって殺されたって言ってたろ?昔の雪の事なんか知ってんじゃねぇのかよ」
「血塗れ怪我まみれのゆきんこがこの山で泣きながら死んでたのを見っけただ。それより昔は知んねーだよ」
碧が言った言葉がジクリと心を抉った気がした。
昔の雪に何があったのか、どうして雪が人を憎んでいるのか
オレは、何一つ知らない。
教えてすらもらえない。
「ゆきんこ、人間の時の話しないからなー」
「九尾様の愛娘だからなー」
「おらたち菊村なんてやつキョーミなかっただ」
ちっ、使えない奴らだな