かつてのわたしは、忌み嫌われていた

病弱だった母は私を産んですぐ死に絶えたらしい

出産というのは命懸けで、母か子か、最悪両方が死ぬ事も少なくなかったのだけど、奇異なわたしの見目ではそうは思われなかった

母親殺しの化け物、妖の子、そんな烙印を押されてこの世に生まれ落ちた

人々は私を恐れ、軽蔑する


血を吐くまで蹴られ殴られ、乱暴に股を開かされた

刃物を突き付けられることも、血が止まらないほどの傷を負うこともよくあった

骨を折られ、剥がされ、焼けた炭を押し付けられ…よくもまあ十いくつも生きられたものよね



老人のように白い髪と、死んだように青白い肌、血の色の目。
村人達が気味悪がるのも、仕方の無い事だった


昼間はモノノケ山に身を隠すよう言われた。穢れた化け物なんて目にも入れたくないと、あわよくば妖怪に喰われてしまえという村人達の思惑も知っていた


村で食料を貰えないから、草や虫、小さい獣を探しては殺して口に入れ、必死に明日を繋いだ

そんな獣地味たわたしを、山の妖怪達は喰らうどころか助けてくれていた

嫌味を言いながらではあったけれど、食べ物を教えてくれて、傷を癒してくれて、読み書きも少しは書けるようになった

それぞれ違う名前でわたしを呼ぶ妖怪達は、むしろわたしの機嫌を伺っている様子すらある

哀れみか、同情か、
はたまた遠い誰かの面影を求め、重ねているかのように





夜になれば、嫌な仕事は全て任された。

固くなった人の死体を埋める。非力な老婆を山に捨てた。酔った男のお慰み。わたしよりも小さい、余った子の命を親の変わりに摘む、村人の罪の濡れ衣を着る…


…生きた心地がしなかった

心なんて死んでいった


それでもしつこく人間の中に居座り続けた理由は他でもない

…たった一人のわたしの家族、父様の存在だった