「…紅達、遅いなあ」

雪が積もっている山の奥の小さな小屋。

雪女たるわたしは、小鬼達の帰りを待っていた。

いつもならとっくに帰ってくる時間なのに…

窓の外を見ると、空は真っ暗で、しんしんと雪が降っていた。

「…さ、散歩。夜の散歩も風情があるわ」

小屋から出て、雪の中を歩く。

強く吹く風が気持ちいい…。

まあ、人里までは降りられないけれど、人里が見える程度までのお散歩よ。


「…おや、雪女じゃあないかい。珍しいの」

「雪女か。外に出歩くなんて、明日は矢でも降ってくるのかえ?」

うっ、妖怪達に掴まってしまった…。

面白い玩具を見つけたように、淀んでいた赤黒い目玉が爛々と輝きだした。

「失礼ね!お散歩よ。お散歩」

「そうは言うが、引きこもりのお前が散歩とは珍しいではないかぁ」

「それは…わ、わたしだってたまにはいつもと違う事くらいするわよ」

全く、わたしをなんだと思ってるのよ。

うん。無視しよう。無視。そして先を急ごう。


「ほぉ~…。もしや、あの子に会うためか?」

「…はあ!?」

つい振り替えると、妖怪達はにやぁ〜っと笑っていた。

た、楽しそう…すごく楽しそうだわ…!!

「当りじゃな!ほぉ~?雪女もやっと恋に堕ちたか。なになに仕方ないさね、雪女とは恋する運命の妖よ」

「色男じゃからのぉ。傲慢で猪突猛進のクソ野郎じゃが言い寄られればお前さんとてイチコロか。雪女め、見る目無いのう」

い、イケイケ…?

「違うわよ!ただのお散歩!だれがあんな口だけ達者な浮ついた人間なんか!!」

「人、とは言うておらぬがな?…ンヒヒッ、春がきたのう。雪女じゃがな」

「ステキな一夜はもう過ごせたかの?今時の人間はどんな味じゃ?」

「だから違うーっ!!」

なんなの!?

なんでそんな話になってるの!?

そんなわけないでしょう!

わたしが人間を憎みはしても、好きになるなんて絶対にない。

絶対に、絶対にあり得ない。

わたしの感情に合わせるかのように、雪は若干強さを増した。