雪に会わない間といえば、一応オレは学校に行っている。

雪の住んでる山に1番近い田舎の高校を選んだ。
当然偏差値も低い底辺の学校だが、生徒数は200人程と少ないし楽でいい。

オレは昔から人が嫌いだった。

代々続く大企業の社長である父は息子を自身のスペアとしか扱わず、母は愛人に入れ込む夫に振り向いて貰うために子に完璧を強要した。

父に付け入ろうと仲良しを求める同級生の親
厄介事にならないよう腫れ物扱いする先生

子供らしくその全てに必死に応えようとしているうちに漠然とした孤独を感じるようになった。

憎んではいけない、嫌ってはいけない、泣いて苦しんでも、彼等だって苦しんでいるのだから。
そう言い聞かせて醜い顔に仮面の笑顔を縫い付けていくうちに、オレ自身の心が分からなくなっていった。

ふとした時に逃げ出した。
誰もいない場所を追い求めて、ここでは無いどこかに。
いっそこの吹き荒れる吹雪の中に逃げ込めば、この雪がオレを消してくれるんじゃないかって。
気が付けば山の中で。

そして雪に出会った。
囲炉裏とロウソクの揺れる火の光が、その白い姿を朧気に浮かばせる。
脆く、儚い。
それでいて神々しいほどの存在感。
冷たさを纏う鈴の声に、真っ直ぐオレを映す赤い赤い瞳に、思わず息を飲んだ。
それは、オレが知りうる中でいちばん儚くうつくしい人。

冷たい態度の中に拭い切れない優しさがあった。

生きてて良かったと。助けてあげると。

初めてわかったんだ。

オレはずっと、誰かに助けて欲しかったんだって。
抱きしめて欲しかった。オレを、見て欲しかったんだ。

その時やっと、心臓が動いたみたいだった。

そんな情けない理由だ。

今でもオレは人が嫌いだ。

それは学校でも変わらない。なるべく人と関わることなんて避けたいんだけどな。

それでも真面目に行ってる理由は他でもない。


雪に言われたからだ。

ひとつは「学ぶ事はとても得がたく有難いことなのよ。それを許される環境に居ながら棒に振ってはバチが当たるわ」と。

お姉さん風を吹かせる雪。
雪はきっと勉強したかったんだろうな…なんて考えてると雪の言葉を蔑ろには出来なかった。

それともう1つ。頼まれたんだ。
これが問題。
…そう。小鬼達の世話役を。

「ハルキが死んでる。死ねハルキ」

「いつも通り死んでる。くたばれハルキ」

「相変わらずの死にっぷり。死にさらせハルキ」

うるせぇ。
コイツら雪がいないからってぶりっ子やめて口が悪くなってやがる。可愛げもクソもねぇ。

小鬼達は人間のマネが大好きだ。

よって、オレが中3の頃に何となく学校の話をしてやったが運の尽き。行きたい行きたいと散々わめきだした。

ーハルキ、どうしても行きたいらしいの。小鬼達をお願いしていいかしら…?ー

雪は、本人は否定するけど小鬼達に甘くて過保護なとこがある。

んでもって、オレは雪の頼み事を断れない。上目遣いで申し訳なさそうに袖の端を掴まれると尚更だ。

そう、なんてったって初めてのお願い。あの雪が初めて甘えてくれたからには、なんとしても叶えないわけにはいかなかった。はぁ…上目遣い、可愛かったんだなぁ。(遠い目)

だからこいつらの保護者役をオレが任されることになったのだが…

「死んでねぇよ。つかいつも通りってなんだ」

「いつも死んだ魚の目ぇしてる。存在が死んだ魚同然だども」

「ゆきんこの前でだけ生き生きしててキモイだよ。くたばれハルキ」

「死に損ないの分際でゆきんこに言い寄ってんじゃねーだ。はよう土に還れ」

最早言い返すのも面倒臭い。
正直…こいつらうるさすぎて疲れる…。雪はよくこんな奴らの世話してこれたな…。

そして五月蝿いことを差し置いても、こいつらといると余計目立つ。


紅はうざいくらい活発なジャ◯ーズ系。
蒼は雪にちょっと寄せた容姿の黒髪ゴリラ女子。
翠はクールな紳士系厨二病患者。

キャラが濃いけど顔はかなりいいし仲もいいから周りが騒ぎ立てるのだ。
…しかしこいつら学校に来ても遊んでばかりでテストは常に赤点だし。結局何がしたいんだか。
もしかして俺の苦労は全く意味の無いものではないのかと思わなくもないんだけどな?

「きゃあ!みてみて、あの四人よ!」

「紅くんも翠くんも…!特に遥希先輩が3人を纏めてるのがいいんだよね!蒼さんいいな~」

「蒼さんはゴリ…あたし達とは比べ物にならないくらいの美少女だもん」

「悠希先輩かっこい~!!」

おい蒼お前さっきゴリラって言われてたぞ得意げにモデルポーズかましてる場合か。

あぁ~…めんどい。雪に会いたい。