多分、というか十中八九、雪はオレの言葉を真に受けてない。

顔を紅く染めても、優しくても気を配ってくれても、それは雪本来がそういう人だからだ。

愛の言葉に耐性がないだけ。抱き締められた経験がないだけ。
そしてきっと、オレじゃなくても誰にでも優しいのが雪なんだ。

きっと、あの日死にかけたのが俺じゃなくても。雪はきっと助けたんだろう。

何年経っても何百回と口説いても、思わせぶりに顔を真っ赤に染めるくせに雪の置きたがる頑なな「距離感」は時折酷く残酷だ。

所詮は妖怪と人間で。
その差は、雪と居る度に痛感してる。

オレより長く生きてる(?)雪にとってみれば、オレなんて青臭いガキにしか見えないだろう。

出会った頃オレはまだガキだったし、余計男としてみられてないのかも。


それに…、雪は人間に怯えてる。

小鬼達が言ってたけど、とても酷い目にあった挙げ句、殺されたんだって。


見た目が人と違う。たったそれだけの事で。


だから疎まれる事には慣れていても、誉められたり、好きだと言われる事に違和感と不信感で受け入れられてないんだ。

そう思うと、雪の事がいじらしく感じるし、同時になぜか愛しくも感じるのだ。

だって、小学生だった頃のオレが雪に好きだって言ったとき、超赤くなってたくらいだ。

小学生相手に。もう可愛すぎて死ぬ。

「…ハルキ、もう放して。苦しい」

ピンクの唇を尖らせて、ムスッとした紅い目で睨んでくる。

うん。怖くない。

むしろ可愛すぎて理性ヤバいっす。

イジりたいけど、ここで不機嫌にさせても利がないことは過去の経験から想定できる。

やり過ぎると警戒されてお触り禁止になるからな。
前に強行突破しかけた時に小鬼達に半殺しにされた挙句暫く雪とお喋り禁止になったし。それでも俺がへこんでいればなんやかんやでため息一つで許してくれるのだから雪はお人好しだ。

名残り惜しさはあるけど…

「残念。雪、柔らかくて気持ちいいのに」

「…っ!?」

冗談めかして笑いながら放す。

雪は雪女だから、長時間温かくしてると体調が悪くなるらしい。

放すと、雪は無言でビッっと小屋の扉の方を指した。

…帰れってことか。

窓の外を見ると、もう薄暗くなっていた。
あー、そろそろヤバい妖怪達が起きる時間だ。

なんだかんだで優しいなぁ。

「今度こそ、二度と来ないで-!」

「またね。雪大好き」

マシュマロみたいな頬に軽くキスすると、雪はまた赤くなって固まった。