流れ出した涙がとまらなくなった郁香は、スッと立ち上がると涙をぬぐいながら叫んだ。
「逃げたら、ここに来て文句言えなくなります。
直登さんの入れてくれた紅茶が飲めなくなる。
もう・・・直登さんを名前で呼べなくなる。仕事のぶっちゃけ話もできなくなる。
そんなの絶対、つまらないもん!!!
私のいちばんお気に入りは、お兄ちゃんなんだから!」
そう言い放つと、ドアから飛び出していってしまった。
「郁香っ!!おいっ・・・」
(いちばんのお気に入り・・・か。
お兄ちゃんはどうやら、嫌われてはいないようでうれしいような・・・うれしくないような。
だが・・・いちばん泣かせてしまった・・・。)
翌朝、直登の部屋に清登がすごい勢いで飛び込んできた。
「直にい、大変だ!郁香がいなくなった。」
「何っ?会社へは?・・・心当たりとか捜してるのか?」
「それが・・・食卓の上に休職願いが置いてあるんだけど・・・いつからもどるか書いてないんだ。」
「退職じゃなくて休職なんだな。」
「うん。たぶん、仕事はやめたとしても財産があるから見つけられてしまうって思ったんじゃないかな。
息抜きの旅行に行って、元気になって帰ってきてくれればいいんだけど。」
「おい、清登・・・なんかおまえ・・・隠してるだろ。」
「えっ・・・俺は何も隠してないけど。」
「いや、いちばんこういうことで騒ぎまくるおまえにしては落ち着きすぎてる。
正直に言え。郁香はどこに行ったんだ?」
「知らないよ。行先は知らないけど、休職だから。
俺、今日は早く大学行かなきゃいけないから、行くよ。」
「おい、清登。待てっ!」
直登がリビングへ行くと、彰登と優登が肩を落としてうなだれている。
「ふさぎ込んでないで、早く仕事へ行け。
彰登は郁香が休むことを、長月や他の会社の担当者に伝えてもらわなきゃならないしな。」
「突然失踪したって伝えるのかよ。」
「いや、そうだな・・・じいさんの財産整理で休みを取ってることにしろ。
その間に、居所をなんとか調べてみるから。」
「何か、アテでもあるのか?」
「いや、まだ・・・。優登も早く、出社しろ。
まだ1年ちょいなんだから、おまえがクビになってしまったら、郁香が見つかったとしてもおまえはヒモになるつもりか?」
「わ、わかったよ・・・行けばいいんだろ。
何かわかったら絶対、連絡くれよ。」
文句をいいながらも2人は出かける準備を始め、慌てて出かけていった。
「はぁ・・・清登が何か知ってそうだが・・・今日のところは口を割る気はなさそうだしな。
たぶん、自殺とかは考えていないんだろうと思うが・・・泊まれる知り合いなどないはずだしな。
きっとひとしきり泣いた後で準備をして出ていったんだろうな。
お気に入りだとか言いながら、どうして捨てていくようなことをするんだ・・・君は。」
最後に出かけようとした直登は、出がけに家政婦の谷田藤子に郁香のことを頼んだ。
「藤子さん、もし、郁香から連絡が合ったら、まっ先に僕に知らせてくれ。
彰登たちに知れると、また大騒ぎになって彼女を追い詰めてしまうかもしれないしな。
藤子さん?・・・どうした・・・きいてるか?」
「は、はい。もちろんです。
連絡が入りましたら、直登様にすぐお伝えします。」
直登は藤子の様子から、清登と似たような様子がうかがえた。
(もしかして、藤子さんも清登も居場所を知っているんじゃないか・・・。
では、なぜ僕にまで隠すんだろう?)
出社してからも、直登は郁香の仲のいい同僚や先輩などに当たって話をきいていったが、これといった手掛かりは見つからなかった。
(誰も頼らずに身を寄せる場所ってどこなんだ・・・。)
あれこれ考えながら、廊下を歩いていると、広報部長が郁香のことを尋ねてきた。
「ここんとこ例の女子専用マンションにかかりっきりで、デザイナーたちの板挟みなんかもあって本当に疲れているようでしたので、休暇を取るように言ったのです。」
「そうでしたか。伊佐木くんは社長に届けを出していたんですね。
なら、いいんですが・・・私は彼女が無断欠席なんて考えられないと思っていたので、本当に心配しましたよ。
確かにリフレッシュは大切ですな。
我々の若い頃は、やる気はあっても先立つものがなかったですからね。
会社の保養所を利用できる限界まで利用したもんでしたよ。
楢崎社長はそういう若者が集まるところに出没するのが好きでしたしね。
社長と我々でテニスの試合なんかもやってました。」
「そうですか。テニスの・・・!?(テニスコートのある別荘・・・!)」
「どうかしましたか?」
「いいえ、部長は活動的な方だったんだなぁっと感心したんです。
これから、急ぎの仕事があるんで、郁香がいない部分で迷惑をかけますがよろしく頼みます。」
「はい、お任せください。
見つかったら、ゆっくり休めと私も言っていたと伝えてください。」
「ああ。えっ・・・部長・・・(まいったな、お見通しだったか。)了解です。
いいお話ありがとう。」
「逃げたら、ここに来て文句言えなくなります。
直登さんの入れてくれた紅茶が飲めなくなる。
もう・・・直登さんを名前で呼べなくなる。仕事のぶっちゃけ話もできなくなる。
そんなの絶対、つまらないもん!!!
私のいちばんお気に入りは、お兄ちゃんなんだから!」
そう言い放つと、ドアから飛び出していってしまった。
「郁香っ!!おいっ・・・」
(いちばんのお気に入り・・・か。
お兄ちゃんはどうやら、嫌われてはいないようでうれしいような・・・うれしくないような。
だが・・・いちばん泣かせてしまった・・・。)
翌朝、直登の部屋に清登がすごい勢いで飛び込んできた。
「直にい、大変だ!郁香がいなくなった。」
「何っ?会社へは?・・・心当たりとか捜してるのか?」
「それが・・・食卓の上に休職願いが置いてあるんだけど・・・いつからもどるか書いてないんだ。」
「退職じゃなくて休職なんだな。」
「うん。たぶん、仕事はやめたとしても財産があるから見つけられてしまうって思ったんじゃないかな。
息抜きの旅行に行って、元気になって帰ってきてくれればいいんだけど。」
「おい、清登・・・なんかおまえ・・・隠してるだろ。」
「えっ・・・俺は何も隠してないけど。」
「いや、いちばんこういうことで騒ぎまくるおまえにしては落ち着きすぎてる。
正直に言え。郁香はどこに行ったんだ?」
「知らないよ。行先は知らないけど、休職だから。
俺、今日は早く大学行かなきゃいけないから、行くよ。」
「おい、清登。待てっ!」
直登がリビングへ行くと、彰登と優登が肩を落としてうなだれている。
「ふさぎ込んでないで、早く仕事へ行け。
彰登は郁香が休むことを、長月や他の会社の担当者に伝えてもらわなきゃならないしな。」
「突然失踪したって伝えるのかよ。」
「いや、そうだな・・・じいさんの財産整理で休みを取ってることにしろ。
その間に、居所をなんとか調べてみるから。」
「何か、アテでもあるのか?」
「いや、まだ・・・。優登も早く、出社しろ。
まだ1年ちょいなんだから、おまえがクビになってしまったら、郁香が見つかったとしてもおまえはヒモになるつもりか?」
「わ、わかったよ・・・行けばいいんだろ。
何かわかったら絶対、連絡くれよ。」
文句をいいながらも2人は出かける準備を始め、慌てて出かけていった。
「はぁ・・・清登が何か知ってそうだが・・・今日のところは口を割る気はなさそうだしな。
たぶん、自殺とかは考えていないんだろうと思うが・・・泊まれる知り合いなどないはずだしな。
きっとひとしきり泣いた後で準備をして出ていったんだろうな。
お気に入りだとか言いながら、どうして捨てていくようなことをするんだ・・・君は。」
最後に出かけようとした直登は、出がけに家政婦の谷田藤子に郁香のことを頼んだ。
「藤子さん、もし、郁香から連絡が合ったら、まっ先に僕に知らせてくれ。
彰登たちに知れると、また大騒ぎになって彼女を追い詰めてしまうかもしれないしな。
藤子さん?・・・どうした・・・きいてるか?」
「は、はい。もちろんです。
連絡が入りましたら、直登様にすぐお伝えします。」
直登は藤子の様子から、清登と似たような様子がうかがえた。
(もしかして、藤子さんも清登も居場所を知っているんじゃないか・・・。
では、なぜ僕にまで隠すんだろう?)
出社してからも、直登は郁香の仲のいい同僚や先輩などに当たって話をきいていったが、これといった手掛かりは見つからなかった。
(誰も頼らずに身を寄せる場所ってどこなんだ・・・。)
あれこれ考えながら、廊下を歩いていると、広報部長が郁香のことを尋ねてきた。
「ここんとこ例の女子専用マンションにかかりっきりで、デザイナーたちの板挟みなんかもあって本当に疲れているようでしたので、休暇を取るように言ったのです。」
「そうでしたか。伊佐木くんは社長に届けを出していたんですね。
なら、いいんですが・・・私は彼女が無断欠席なんて考えられないと思っていたので、本当に心配しましたよ。
確かにリフレッシュは大切ですな。
我々の若い頃は、やる気はあっても先立つものがなかったですからね。
会社の保養所を利用できる限界まで利用したもんでしたよ。
楢崎社長はそういう若者が集まるところに出没するのが好きでしたしね。
社長と我々でテニスの試合なんかもやってました。」
「そうですか。テニスの・・・!?(テニスコートのある別荘・・・!)」
「どうかしましたか?」
「いいえ、部長は活動的な方だったんだなぁっと感心したんです。
これから、急ぎの仕事があるんで、郁香がいない部分で迷惑をかけますがよろしく頼みます。」
「はい、お任せください。
見つかったら、ゆっくり休めと私も言っていたと伝えてください。」
「ああ。えっ・・・部長・・・(まいったな、お見通しだったか。)了解です。
いいお話ありがとう。」

