彰登に連れられて入った部屋のソファに直登は苦しそうに横たわっていた。

それでも郁香が来たことがわかると、声をしぼりだすように話した。


「迎えにいけなくてごめん。
体が動かなくなってしまって・・・情けない。」



「アレルギーがひどくなっちゃったんだから仕方がないわよ。
彰登さんから私が来る前のことをいろいろ聞いたよ。

もっともっと早く私がおじいちゃんのところにきて、逢えたらよかったのに。
こんなつらいのに、本社を立て直してがんばってきたんでしょう。

私ももっとがんばるから、これからは未来を見よう・・・ねっ。」



「直にい、僕はやりたいことのために会社からも家からも飛び出してしまったけど、直にいの会社を盛り立てるように応援するから。」


「彰登さんはどうしてうちに住まなかったんですか?」


「そりゃ、僕たちの持ち物じゃないから。
追い出されるのがわかっているのに、住むなんてできないから。」



「追い出されなければ住んでくれますか?」


「えっ!?そ、それは、僕に君と同じ家に住めと・・・。」


「ええ。お部屋だって余ってるし・・・あ、でも、すみません。
彼女さんとか呼びにくいですか。」



「家に呼ぶ女なんていないよ。だけどやめとく。
君の気持ちはうれしいけど、僕は自分の力で稼いですべてやりたいから。
ときどき遊びにいくことにする。
それじゃ、ダメかな?」


「いいえ、来てくださるのは歓迎しますから。」



「僕は歓迎しないから・・・。」


「直にい?・・・どうした?」


「おまえが来てしまったら、郁香が電車で出かけるときについて出られないだろ。」


「ちょ、ちょっと待てって。
直にいはずっと車通勤じゃないときは僕に成りすますつもりなのか?
年齢的に・・・もう無理があるんじゃないのか・・・。」


「うるさい、背格好が似ててメガネがあれば無理じゃない!
郁香・・・すまないが起きるのを手伝ってくれないか。」



「はい。よ・・・こらしょっと・・・ととと・・・きゃあ!」


郁香は直登の腕をひっぱったが、足に力をいれると滑って、直登の上に倒れてしまった。

いきなり目の前に直登の顔があって。


「だ、大丈夫ですか?わ、わたしが触れてしまったら大変なことになっちゃう・・・。」


アレルギー症状を気にして郁香が慌てて起き上がろうとすると、直登は郁香の手を離さずに言った。


「どうやら・・・郁香のおかげで治ったみたいだ。」


「えっ?」


直登は郁香を抱えたままスッとソファに座りなおした。


「これ以上、郁香にカッコ悪いところばかり見せるわけにはいかないだろ。
一番兄ちゃんなんだから・・・このくらい・・・うっ。」


「直登さん!」


「大丈夫だって・・・。それより2人とも迷惑かけてごめん。
だけど、今回は僕が参加しないとって思ったんだ。

いつもはこういうことが怖くて、広登に任せてたけど・・・それじゃダメだってずっと思ってた。
郁香がうちに来てくれて・・・いや、自分の家にもどってくれて、今回はがんばれそうな気がしたんだ。
結果はこんなだけどね。

でも、いい商談もできたし、楢司の社長として対外的に顔を出せたのはよかったと思ってるんだ。」



「そうですね。直にいはすごくがんばってましたよ。
あっ、ごめんなさい・・・社長でした。」


「ふふっ。いいよ・・・もうおひらきになってしまったね、帰ろうか。」


「僕が車まわしてもらってくるよ。」


「彰登さんは、帰っちゃうんですか?」


「うん、明日会社の方へおじゃまするよ。
お疲れ。おやすみ~。」



そして、郁香と直登は邸まで車で帰宅し、その頃には直登も症状が消えていつも通りになっていた。


「よかった。家で動けないなんて言われたら、清登さんを起こさなきゃいけなかったわ。」


「僕が誘ったのに本当にすまなかった。」


「謝らないでください。私だっていろいろと勉強になることが多かったし、いい経験でした。
それに、おじいちゃんと花司家のつながりも大分わかりましたし。
直登さんのつらい過去も・・・。

社長室でときどき、暗い顔をしてわざとひとりでいるようなことをしているのも、なんだかわかったような気がしました。」


「えっ・・・そんなところまで見透かされてたんだね。
じゃ、1つ頼まれごとをしてくれないかな。」


「またパーティーですか?」


「いや、ほんとのこと言うと郁香に僕の秘書になってほしいと思ったけど・・・そんなことをしたら、対外的に批判されそうだからしばらくは広報でいいけど、家にいるときはね・・・。」


「家にいるときは?」


「少しだけ仕事とか僕のこととか相談にのってくれないかな。
話をきいてくれるだけでもいいんだけど・・・。」