次の日からコレットは料理を作ったり、掃除をしたりして一日を過ごし、一方ルークは魔法に精を出しながらも、時折訪ねてくる客の相手をした。
彼は疲れているだろうにそれすら手を抜かず、細かいところまで丁寧に接客する。
棚の掃除をしながらこっそりその様子を眺め、彼の仕事っぷりに感心してしまうほどだ。
そうやって頑張ってくれているにも関わらず、ベリーの魔法はなかなか解けない。ベリーを齧って変化がでないたびに、コレットは申し訳なくて仕方がなくなる。
食べた自分も自分だが、おかしな魔法をかけたメリッサをつい恨みたくなるほどに。
いよいよ五日目となった朝、ルークが白鳩の足に手紙を括りつけながら肩を竦めた。
「あと少しなのですが、メリッサに来てもらわなくてはならないようです」
そう言ってルークが鳩を放った数分後、呼び出しを受けたメリッサがボサボサの頭で薬屋に訪れた。
あまりの早さに驚くコレットに、メリッサが小声で囁く。
「手紙がね、恐ろしすぎたの」
一体何が書いてあったのだろう。気になったが、それについて教えるつもりはないらしく、メリッサはコレットを手のひらに乗せて、頭を撫でた。
「ごめんね。あたしのせいで……」
「そうですメリッサ、あなたのせいです」
後ろにいたルークが腕を組んでメリッサを見ると、メリッサは体を強張らせた。
「あなたは何の魔法をかけようとしたか覚えていないと言いましたが、今すぐ思い出してください。どうやらもっと情報が必要なようです」
「え、あの。えっと」
「コレットの命がかかっているんです。しっかりしてください」
メリッサはヘビに睨まれたカエルのように顔を青くして、ふるふる震え始めた。
心配になってきたコレットが口を開こうとした瞬間、メリッサは勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさい! あたし、本当は覚えてたのに、恥ずかしくて……」
そう言って謝るメリッサの目から、涙がぽろぽろ流れ落ちてくる。
ルークはため息をつきはしたが咎めることはなく、うって変わって優しい声を出した。
「恥ずかしいことじゃありません。誰だって恋はします」
(え? 恋?)
驚いてメリッサを見ると、みるみるメリッサの顔が赤く染まっていった。
「ベリーの魔法は恋の魔法。メリッサは恋に関わる魔法を、いちごにかけたのです」
コレットは言葉を出せないまま、口は間抜けに開いていた。
「黙っててごめんね。あたし、村に好きな人がいるの……」
そう告げたメリッサを、彼女の手のひらの上からまじまじと見上げた。顔を赤くして俯くメリッサは、恋する乙女の顔をしていた。



