「災難でしたね」
「助かりました……」
「またこんなことがあっては大変ですから、このままここにいてください」
コレットを作業台に残したまま、ルークはまたベリーの山に向かう。
コレットはルークの作業を眺めているフリをしつつ、彼の手に視線を送った。
さっき助けてくれたときのルークの手。
ふんわりとコレットを包んだ彼の手は、優しくて暖かだった。
コレットが見つめているのに気付いたのか、ルークが微笑んできてコレットは頬が染まるのを感じた。
(何だか……ドキドキする)
そこでふと、コレットはあることに気がついた。
ルークは昨日から働きづめで、食事をとっていないのだ。コレットはベリーを食べているからお腹はすかないけれど……
「あの、ルークさん」
「何でしょう」
ルークが手を止めて、コレットを見る。
「キッチンをお借りしてもいいですか? わたし、何か作ります」
「気を使わなくていいですよ、僕は食べなくても平気ですから。それに小さい体では大変でしょう」
「待っているだけじゃ暇だし、小さくたって何もできないわけじゃないもの」
必死に訴えると、ルークはそうですね、と頷いてくれた。
「それではあなたに魔法をかけてあげましょう」
ルークが指先を少し動かすと、キラキラしたものがコレットを包み、体がふわりと宙に浮かんだ。
「わあ……!」
「それなら好きなように移動できるでしょう。お願いしますね、コレット」
「はいっ」
コレットは喜んでキッチンに行き、せっせと料理に励んだ。
道具を使うのには骨が折れるけれど、これくらいで音をあげては頑張ってくれているルークに申し訳ない。
なんとか料理ができあがった頃には、もう日が沈み始めていた。
テーブルの上で湯気をたてる料理にルークが目をまるくして、コレットは大満足だ。
ルークはスープを飲んで、さらに驚いた声を上げる。
「美味しい。コレットは料理が上手ですね」
「ち、小さくたってできるんですよ」
目を逸らしながら照れ隠しに言うと、ルークの微笑が返ってくる。
「僕も負けないように頑張らなくては」
そう言って、ルークはクランベリーを取り出した。
コレットが一口齧ってみると、いつもと少し違った。
体の内側から、ぽわっとあたたかなものが体全体に広がる。まるで春のひだまりがお腹に棲みついたようで心地よかったが、やがて消えてしまった。
「少し先が見えてきましたね」
ルークはコレットの反応にほっと息をついて笑顔になる。
コレットはルークの笑顔に胸の奥が苦しくなって、こくりと頷くことしかできなかった。



