外はだいぶ薄暗くなってきて、家々に明りが灯り始める。
コレットはテーブルに料理を並べ、上々の出来に満足した。
あとはケーキにいちごを飾れば完成だ。
いつもならここで甘い香りに誘われてつまみ食いしてしまうのだが、今は軽いトラウマのおかげでつまみ食いせずにすんだ。
いちごを食べるときはルークに見張っていてもらおう。
そう思いながら最後の一つをのせたところで、ルークが帰ってきた。
「これはすごい、どうしたんですか?」
目を見開きながら席につくルークに、少し気恥ずかしくなって笑って誤魔化した。
ちょっと張り切り過ぎたような気がしないでもない。
ワインで乾杯をし、料理を口に運ぶルークを緊張しながら見守る。
「美味しい」
笑顔で放たれた一言に、コレットの頬が緩んだ。
やっぱり恋かも、と思う。
彼が仕事をしている姿を見るのが好きだ。
優しい微笑みに胸が高鳴るし、美味しそうに料理を食べてくれるとこんなにも嬉しい。
「……どうしたんですか」
「え?」
顔をあげた瞬間、手の甲にぽたりと雫が落ちて、コレットはいつの間にか泣いていたことに気がついた。
慌てて涙を拭い、首を横に振る。
「な、なんでもないんです」
そう言いつつ手を伸ばしてジャムの瓶を取ると、ルークがその手を掴んできた。
コレットは動揺してジャムを取り落してしまい、テーブルの上にジャムが飛び散った。
ベリーの甘い香りが辺りに漂う。
ルークはいつもの穏やかな表情ではなく、真剣な顔つきでコレットを見つめ、口を開いた。
「僕があれだけ一生懸命だったのは、あなたのためだけではありません。この世界からあなたを消してしまうのが嫌だったからです」
コレットは初めて見るルークの真剣な表情に戸惑いながらも、ルークから目が離せない。
声も出せないコレットに、ルークはふっといつもの微笑を見せる。
「もとに戻せてよかった。もとにもどったあなたは、こんなにも可愛らしい」
そう言って、コレットの指先にキスをした。
コレットは驚いて手を引っ込め、真っ赤な顔で口をぱくぱく動かした。
「えっと、あの」
頭がパンクしそうなコレットをよそに、ルークはケーキの上からいちごを一つ摘みあげた。
「恋を知らないと言いましたね」
そしてそれを、コレットの唇にそっと押つける。
「それなら、僕が教えてあげましょう」
ルークは甘い瞳を細めて妖艶に微笑んだ。
紅い瞳に見つめられ、頭がくらくらしてしまう。
ベリーの魔法なんて、もう懲り懲りだけれど……
(彼の魔法になら、かかってもいい……)
そっと口を開き、甘いいちごを受け入れた。
甘酸っぱいいちごが口に広がるのを感じながらルークを見ると、優しく見つめ返された。
窓の外で、星の光が雪とともにキラキラと舞い落ちる。
甘い魔法は、まだまだこれから。
【end】



