ベリーの魔法


そしてとうとう、その日の朝を迎えた。

「きっとこれで、魔法は解けます」

差し出されたいちごをコレットはぼんやりと見つめた。

ルークが徹夜で仕上げたベリーの魔法。

これを食べたら、元に戻れる。
魔法が解けて、消えることなく聖夜を迎えることができるのだ。

「どうしたんですか?」

受け取らないコレットをルークが不思議そうに見てきて、コレットは慌てて首を横にふった。

「何でも。……いただきます」

コレットはいちごを受け取り、そっと口へ運んだ。

いつも通り、一口齧る。

「あ……」

口にした瞬間から、体に異変を感じた。

食べかけのいちごが床に転がる。

メリッサのいちごを食べたときのように体中が熱くなって、コレットは腕を抱えて座り込んだ。

ただ、あの時とは違って意識を失うことはなく、自分の手や足がみるみる大きくなっていくのを目の当たりにした。
そしてあっというまに、元の姿に戻って作業台の上に腰かけていた。

「っ、ルークさん……」

肩で息をしながらルークを見ると、コレットの目線と同じ高さに彼の瞳があった。

彼の赤い瞳は光の加減で濃いピンクのようにも見え、ベリーのようだとぼんやりする頭で思った。

ルークはぐらついたコレットの肩を支え、微笑んだ。

「よかった。これであなたが消えずにすむ」

「……っ」

コレットはぱっと目を逸らした。
体が小さかったときとは違う感覚で見える彼は、今までよりずっと素敵に見えて困ってしまう。

明日にはもう、メリッサが迎えにくるというのに。


コレットが落ち着くと、ルークは広場で行われる聖夜祭の準備に呼び出され、夕刻には戻ると言って出て行った。

残されたコレットは、腕まくりをしてキッチンに立つ。

今夜はここにいられる最後の夜。
そして、誰にとっても特別な、聖なる夜。

コレットの魔法を解くために頑張ってくれたルークにお礼もかねて、今夜はご馳走をつくろうと心に決めた。

(ルークさんが戻ってくる前に、ね)