メリッサは、どんなことを、どんな風に願って魔法をかけたのかをルークにこと細かに聞かれ、全部白状すると顔を真っ赤にしながら箒に乗って逃げ帰った。
空の向こうに小さくなっていくメリッサを、コレットは窓から黙って見つめた。
(知らなかった。メリッサが恋をしていたなんて)
何だかさみしいような気持ちになって、コレットは俯いた。
「コレット? どうかしたんですか」
コレットはベリーの山からブルーベリーをとって、胸に抱えた。
「ルークさんは恋をしたこと、ありますか?」
ちら、とルークを見ると、彼はあっさりと頷く。
「ありますよ」
そう言ったルークに、なぜかコレットの胸の奥がざわついた。
この胸のざわつきが何なのかわからないまま、コレットはそれをしまいこんでブルーベリーに額をこつんとくっつける。
「わたし……恋をしたことがないんです」
コレットは今まで恋をしたことがなかったが、恋をしなくても生きていけるから別にいいと思っていた。
それなのに、メリッサが恋をしていると知った瞬間、なんだか置いてけぼりにされてしまったような感覚に陥るのと同時に、羨ましくなった。
コレットが未だ知りえない恋をするという感情を、皆は知っている。
「……恋をすると、どうなるんですか?」
コレットが興味本位で尋ねたことに、ルークは少し考えてから一言放った。
「恋をすると、苦しくなります」
え、とコレットが眉を顰めると、ルークはおかしそうに笑ってあとを続けた。
「それから、どきどきして、その人のことが気になって仕方なくなります」
そう言って微笑んだルークと目があい、コレットはどくんと胸を鳴らした。
コレットがどぎまぎしている間にルークは最後の仕上げに取り掛かってしまい、コレットは高鳴る胸にこっそりと手をあてた。
恋をすると、苦しくなって、どきどきして、その人のことが気になってしかたがなくなる?
(それって、今のわたしだとルークさん……!?)
そう思って戸惑い焦りながらも、思い浮かんでくるのはルークの丁寧な手つきや、お客様に向ける笑顔、そしてそれとは少し違う、一緒に過ごしているときの柔らかな微笑み……
これが恋なのかはわからないけれど、もっとルークのことを知りたいとは思っていた。
でも、とコレットは気分を暗くする。魔法が解けたら、コレットは村に帰らないといけない。
いつまでもここに居座るわけにはいかないのだ。
コレットは寝ようとバスケットの中に入りんだが、目が冴えて眠れず、夜明けまでルークが作業する音を聞いて過ごした。



