「もちろん、楓花さんがいることを知ってるよ。だからね、あたしは二人の幸せを祈ってるよ」


これは、本当のこと。

決して見栄を張っているわけじゃないの。

嫉妬の心は、もうないの。


そりゃ、翔太の相手が楓花さんじゃなくてあたしならいいのに、と今でも思う時だってあるけれど…

それ幸せなら。楓花さんといることで翔太が幸せなら、翔太の笑顔が見れるなら…それでもいいかなって思っちゃうんだ。


「あたしの幸せは、翔太が幸せでいることだからね?」

忘れないでよね、と翔太の頬っぺたをツンツンと指で突っつく。相変わらずニキビのない、羨ましいくたいに健康的な肌だ。



「だからね…


世界で一番、幸せになってね…?」



楓花さんと幸せな家庭を作って、

美玲や雅人ともいつまでも仲良く、


翔太がずっと幸せでいてほしい。



それが、あたしの最後の願いだよ。


あたしの願いなのに…どうしてかな?

それを口にした途端、涙が溢れて、視界がぼやけてしまう。


嫌だな、涙が止まらない…

止まってよ。止ってくれないとあたし、もっと空しくなっちゃうよ…


泣いてるってことは、もしかしてあたしは悲しんでいるの?

馬鹿だな、あたし。最初からこうなることは分かっていたのに。

この学園に来たときからちゃんと分かっていたのに。


気持ちは届かなかったけど、でも、これで良かったんだよね?

これを望んでいたんだよね?

そうだよ。ずっとずっと、言いたかったんだもん。

言いたいことを言えたんだ。


あぁ、思い残すことはもうない。



涙を拭い、無邪気に眠る翔太の顔を見ると、全てが終わったんだと安心してしまって、


あたしは意識を手放した。