あたしの部屋に入ると、ゆっくりとベッドに降ろしてくれた。


「ねぇ、何でお姫様抱っこしたの?」

瞬間移動なら手を繋げば良かったのに。


「お前が手のひらを怪我してたから」

「…理由が理由じゃないんですが…」

「いいから早く寝ろ。今日は疲れただろ?

明日は学校だ。寝坊はすんなよ?」


「あ、そのことなんだけど…」

「どうした?」


「明日学校休むね。家に用事があるの」

「…"ガーネット"か?」


頷いた。

今日見た映像を伝えなくちゃいけない。

なるべく早いうちに伝えなくちゃ。


「…無茶はすんなよ?」

「ありがとう」


あたしが微笑むと翔太は顔を背けた。

変な翔太。


「もう寝ろ」

じゃあな、と翔太はドアノブに手をかけた。

あたしは彼の名前を呼ぶ。


「どうした?」


そんな優しい顔しないで…

胸が痛くなるから。

辛くなるから…


「今日はありがとう」


そんな醜い感情を押し殺し、微笑んだ。

翔太はフッと微笑んで「おやすみ」と言い残して部屋を出て行った。


バタン、とドアの閉まる音がいつもより大きく聞こえた。



「おやすみ」

呟いてみたけど、翔太のいないこの部屋であたしが呟いたところでこの声は翔太に届くはずがない。

たった一言おやすみの挨拶さえ届かないのに、あたしが想いを言葉にしたところで、届くはずはないんだ。


そう思った瞬間、涙が頬を伝った。


楓花さんの存在を知ってから、翔太に恋するときっと辛くなると分かっていたはずなのに。

そう思えば思うほど涙は溢れて止まらなかった。