「久しぶりだね。今回はちょっと用事があって来たんだ」

「あぁ、追加の修業のことですか?」

さすが、千沙さん!話が早い。


「そうなんだ」

「やはり、由良さんが指導を?」

「さっき命令が下ったんだ」

「そうでしたか。しかし、私も由良さんが適任だと思いますよ」

「そうかな~?」

「そうですとも。追加の指導の話を聞いた時、指導役は由良さんしかいないと思いましたし、皆さんそう思っています」


優しい笑顔で微笑まれた。

昔から、この笑顔が好きだった。


一人っ子のあたしにとって、千沙さんはあたしのお姉さんのような人。

それは今も変わらない。


「ところで、こんなことろで何をなさっていたのです?ここのあたりには書庫しかありませんし、この先は空き部屋しかありませんよね?」

…や、やっぱり…?

「まさか…」

千沙さんは手を口元に当てて、驚きの表情をしていた。


「そのまさかなんだよね…」

あたしは苦笑いしかできない。


だって、数か月前までいた場所のことをすっかり忘れてるんだもん。

そりゃ、驚くよね?呆れるよね?

でも、千沙さんには呆れられたくなかったな…


「私は驚いてはいませんし、呆れてもおりませんよ?あの由良さんのことですから、このようなこともあるだろうと思っていました」


少し驚いたけど、すぐに思い出した。


「そういえば、千沙さんは、心を読むことが得意だったね」

すると千沙さんはクスっと笑った。


「確かに、心を読むことは得意ですが、今は読んでいませんでしたよ?」