服を拾って着、碧の香りが漂う寝室を出た。


「帰るの?」


未だキッチンに立ち尽くしていた碧。


「うん。」


視線は玄関に向けたまま、短く答えた。


会話はそれだけで終わり、碧のマンションを後にした。


心と心が密接になれない関係の終わりは、呆気ないものだった。


少なくとも、俺の中では終わったと感じていた。


登り始めてきた朝日が、寝起きの目に染みる。


未だ熱を帯びない早朝の空気が、やけに清々しく感じた。


まやかしで埋めた空虚感は、力強い朝日に照らされて溶けていく。


清々しい朝の空気が、翠に対する罪悪感を、更に責め立てていく気がした。


いっその事、力強い朝日が身体まで溶かしてはくれないだろうかと願う。


赤錆の浮いたアパートの階段を上る時、翠の部屋を一瞥した。


だが、どんな顔をして会ったら良いのか、何を話せば良いのかと考えて、目を伏せたまま階段を上った。