「そっかぁ〜。アパートじゃないと家庭用のリングも置けるんだもんね。」


「だな。」


翠と目を合わせず、首筋等辺に視点を定めた。


僅かの沈黙でも、何か話さなければと焦りが出るけど、何も頭には思い浮かばない。


「ねぇ、お昼ご飯食べた?」


「ご飯って言うか、さっき軽くな。」


口元にパン滓が付いてないかと、さり気なく口元を拭った。


「そっか、双英とご飯食べてから友達の所行こうかと思ってたんだけど、少し早いけど出掛けちゃうから良いや。双英は?」


付き合っているとは言っても、幼なじみのような関係が続いている事に、救いを感じた。


「泰二の家で練習。」


「そっか、じゃあ頑張ってね。」


内心ではホッと胸を撫で下ろしながら、二人分の幅しかない階段で擦れ違った。


擦れ違った後で、翠が鼻をヒクつかせた事を、安心しきった俺は見逃していた。