「俺に何か用件が有ったから、紙切れを挟んでいったんじゃないんですか?」


恥ずかしさが焦りへ姿を変え、焦りからくる怒りを誤魔化すように言葉を発した。


だがそれを見透かされ、向こうで微笑が浮かび上がっているような気がする。


「そうね、用件ね…今日時間は有るかしら?」


高校を辞めてから、俺の時間を制限するものは何一つ無い。


尤もそれは、在学中でもさほど変わりは無かった。


「…何時でも良いですよ。」


「じゃあ九時に[エデン]っていうバーで。場所は分かる?」


[エデン]なら、お袋の店が入っているビルから近かった筈。


入った事は無いけど、看板とその名前には見覚えが有る。


この寂れた街じゃ、呑める店は一ヶ所に固まっているのだから、記憶違いでも探すのに苦労する事は無い。


「じゃ、九時に[エデン]で。」