Street Ball

道路に落ちた紙切れを拾う途中に、この紙切れが何だったのか思い出した。


…昨日、あの女性がフェンスに挟めていったやつ…。


いや、挟んだのではなく、捨てていったのかもしれないけど。


二つに折られた紙切れを拾うと、半日経ってもあの女性の香りが舞った。


微笑と佇む、ベビードールの香り。


開いた紙には、十一桁の番号が女性だと分かる文字で書かれていた。


右手には携帯。左手には電話番号の書かれた紙切れ。


立ち止まったまま、どうするべきか考えた。


冷静に考えようとすればする程、脳に刻まれた微笑の断片が思考を惑わしていく。


一度だけ、一度だけ電話して繋がらなかったら、この場で紙切れを燃やしてしまおう…。


誰に伝えなきゃいけない訳でもないのに、気付けばそう呟いていた。


ディスプレイに点滅する十一桁の番号…離れてそれを見つめていると、微かに鳴るコール音が鼓膜に届いてくる。