勝利の喜びを両頬のえくぼに刻み、柔らかな笑みを送ってくる翠。


試合後の熱気が籠もるコートに、しっとりとした風が吹いた気がした。


「これでやっと本戦出場だ。本番はこれからだよ。」


変わらぬ笑顔で頷く翠を見てから、視線をバッシュに戻す。


さり気なく確かめたポケットには、確かな紙切れの感触が有った。


「おっしゃー!支度終わったー!出ようぜ夏目。」


汗に濡れたTシャツを脱ぎ、盛り上がった筋肉を晒している鉄が急かす。


「ん〜な格好して風邪引くなよ鉄。ま、鉄なら大丈夫か。」


着替えを終えた泰二も立ち上がり、鉄と絡みながら俺の支度が終わるのを待っている。


黒のTシャツを脱ぎ、持ってきたレーヨン生地のシャツを羽織って立ち上がった。


シャツの背中にプリントされているのは、白鷹。


翼が有れば、リングの高さなんて気にせずダンク出来るのにな…。


そんなどうしようもない事を考えながら、鎖のネットが落ち着きを取り戻したリングを一瞥し、四人でコートを後にした。