夜の乾いた微風が頬を撫で、口元からスピリットの煙を連れ去る。


「アキさーん、ロンさんが待ってますよ。」


暗闇に姿を溶けさせた、[BAZZ]のギャングらしき声が遠くから聞こえてきた。


「何だか嫌われちゃったみたいね。じゃあロンが待ってるって言うから行くわ。またね〜翠ちゃん。」


陽に焼けた輪郭が持ち上がり、アキは翠に手を振って歩き出した。


暗闇の中で聞こえた舌打ちは、そのままアキの姿と共に消えてしまった。


「なんか掴み所が無いって言うか、無害って言うか、よく分からない奴だな。」


鉄の呆れたような声が背後から聞こえ、ライターの着火石を擦る音が風に流されていった。


…泰二の調子を狂わされた事を考えれば、無害とは言い難い。


「さっ、祝勝会するんでしょ?早くコンビニに買い出しに行こうよ。」


漂う暗い雰囲気を打ち消すような翠の声が響き、気持ちを入れ替えて歩き出した。



敗者復活戦、準決勝第二試合。32対41で[HEAT]の勝利。