──しかし。
苦無を持った右手を振り下ろす瞬間、奴は私の腕を掴んだ。
そして、カキンッと金属音を立てながら、奴の苦無が私の苦無を地面に打ち落し、ぼとっと鈍く低い音が響いた。
両手に何もない状態。
……否、立場が逆転した。
いつの間にか、私が下で奴が上。
そして奴の苦無が振り上げられ、私の喉元に突き付けられる。
「名は、何と言う」
初めて奴の声を聞いた瞬間だった。
布で覆っているせいか、声が少しこもっている。
……一瞬、息が止まったかと思った。
言うもんか、名前なんか。
顔も声も名前も、知られてたまるか……。

