「又七郎さま、まだ幼少なれば、門人の助太刀を認められたし!」

一理ある申し出に断りを出すわけにも行かず、といって数十名を相手にするなどは、いかなムサシといえども無謀なことだ。

孫子の兵法を読み解いたムサシだ。
善く守る者は九地の下に蔵(かく)れ、善く攻むる者は九天の上に動く。
故に能く自ら保ちて勝を全うするなり。
に思い至った。

待ち伏せをして大将である又七郎を討ち取ることにした。
大将を討ち取れば、門人たちに大義名分がなくなる。そう踏んでのことだった。

しかしこれが裏目に出た。
ただその場に居るだけの烏合の衆的な若い門人たちが
「幼子を惨殺するとは、何ごとか!」
「木の上に潜んでの襲撃とは、卑怯なり!」と、いきり立った。

泥田の中を逃げるムサシを「ムサシ、許すまじ!」と叫び合いながら、一斉に追いかけた。

ある者はムサシ同様に泥田の中を走り、またある者はあぜ道を駆けた。
決戦の場、洛外下り松に通ずる街道に身を伏せていた他の門人たちも、その怒号を聞きつけて一斉にムサシに向かって駆け寄った。