京の地にて。

「ムサシ様。吉岡清十郎さまを倒せば、京随一の剣士となります。
さすれば、武芸を奨励している藩より、お声がかかるやもしれませぬぞ」

 吉岡道場を覗いた折に、そのあまりになよなよとした動きに呆れ果てた。
“これなら勝てる!”そう踏んだムサシだ。

商人の言葉を鵜呑みにしたムサシ、すぐさま京の町道場破りを繰り返して、清十郎を怒らせた。

洛外蓮台野において清十郎を倒し、仇討ちと挑んできた弟の伝七郎をも打ち負かした。
京の町における吉岡一門の不評が、ムサシに味方した。
町人はもとより武士たちの間からも賞賛の声が挙がった。

これで剣術指南役への推挙があるものと期待したムサシだったが、突如、清十郎の遺児又七郎からの果たし状が届けられた。

さすがに、まだいたいけない子どもを相手にすることにためらいを感じるムサシだったが
“この闘いに勝てば、安穏な生活を送れるだろう”と、腹を決めた。