とある山中にて。

けもの道を踏破しようとしたごんすけの前に、熊と闘ったとみられる瀕死の武芸者が現れた。

「宮本武蔵と申す。日の本一の武芸者になるべく修行を重ねて参り申した。
その仕上げにと、獣の王である熊を相手にし申したが、このような有様で……。志半ばにては、残念無念なり!」

言葉を遺して、息絶えた。

「あなたさまの衣類、刀、そして懐中物。死に逝くあなた様には無用のもの。
生き行く吾が、いただきまする。故にこの後、ムサシと名乗らせていただきまする。南無……」

ごんたの死後、村を飛び出たごんすけを拾い育てた和尚の言葉が、今、よみがえる。

「他人の名をかたると言うことは、その者のすべてを背負うことぞ。
その者の過去に縛られ、これより辿るであろう道を進まねばならぬ。しかと、心せよ!」