小次郎が事切れた時、ムサシは、大きく息を吐いた。
一度二度、そして三度。吐く度に体中の力が抜けていく。
“終わった…ようやく。これで安住の地を得られるというものだ”
ムサシの脳裏に、堺の商人が現れた。
「如何ですかな? 佐々木小次郎さまを倒せば、ムサシさまを剣術指南役として迎え入れる藩がございます。
その藩名は申し上げられませんが、小倉藩とは犬猿の仲でございまして。
毎年指南役同士の試合がございますが、小次郎さまが御指南役になられて以降、一度として勝てぬのでございます。
そこで小次郎さまを倒せるお方をお探しなのです」
安住の地を求めていたムサシにとって、渡りに舟の話ではあった。
しかし佐々木小次郎という名は、行く先々で聞かぬことはなかった。
天才剣士で、日の本一の剣客と称されている。
“勝てるか、小次郎に…”
逡巡する気持ちがあった。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、と勝負に出た。
これで死すとも已(や)むなし、と腹を固めた。
そして佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシ、今度こその思いで堺の豪商の元を訪れた。
賞賛の声と共に迎えられるものと信じていたムサシに対し、当主の出迎えはなかった。
表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。
一度二度、そして三度。吐く度に体中の力が抜けていく。
“終わった…ようやく。これで安住の地を得られるというものだ”
ムサシの脳裏に、堺の商人が現れた。
「如何ですかな? 佐々木小次郎さまを倒せば、ムサシさまを剣術指南役として迎え入れる藩がございます。
その藩名は申し上げられませんが、小倉藩とは犬猿の仲でございまして。
毎年指南役同士の試合がございますが、小次郎さまが御指南役になられて以降、一度として勝てぬのでございます。
そこで小次郎さまを倒せるお方をお探しなのです」
安住の地を求めていたムサシにとって、渡りに舟の話ではあった。
しかし佐々木小次郎という名は、行く先々で聞かぬことはなかった。
天才剣士で、日の本一の剣客と称されている。
“勝てるか、小次郎に…”
逡巡する気持ちがあった。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、と勝負に出た。
これで死すとも已(や)むなし、と腹を固めた。
そして佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシ、今度こその思いで堺の豪商の元を訪れた。
賞賛の声と共に迎えられるものと信じていたムサシに対し、当主の出迎えはなかった。
表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。


