少女が誘拐されたと知りラインアーサの表情はますます険しくなった。
 ハリが報告書に目を通しながら続ける。

「何やら突然空間が歪み、その裂け目から現れた黒いマントフードの男に裂け目の中へと連れ去られた様です。……それも、親の目の前で」

 それを聞いた瞬間、ラインアーサの頭の中は十一年前の忌々しいあの日へと逆戻りした。

「……ライア、どうかしましたか?」

「おいアーサ!? どうした? お前、顔色悪いけど大丈夫なのか?」

「…っ姉上!!」

 ラインアーサは騒然とする王宮の広間からひとり飛び出すと矢の如く駆け出した。
 イリアーナの元へと急く。
 後ろから何かを叫びながらハリとジュリアンが追って来ているのが分かったが足は止められなかった。何故なら似ていたのだ。何もかもが変わってしまった、あの日の出来事と。リノ・フェンティスタ全土が闇に覆われてしまったあの日と……。

 ───十一年前のあの日は天気が良く、母子三人で王宮の中庭に植えられている大樹の下でお茶を楽しんでいた。
 父王 ライオネルは、隔月に一度の各国代表が集まる定例会議に出席しており王宮を留守にしていた……。