「そう……。」
小さく返事を して、私は木に凭れ掛かって少年を見つめた。
彼は ゆっくりと立ち上がると、再び翼を広げた。
5メートル程は順調に上がったのに、急に支えを失ったかのように揺れ、地面に落ちた。
「……どうして翔べないのかしらね?」
思わず呟いてしまう。翼が おかしい訳では無いし、バランスも取れているようなのに。
「彼は、女神様に見放されているのでは無いかと噂されているのです。」
「女神様に?」
直ぐ隣に立っていた護衛を見遣ると、彼は小さく頷いた。
「魔法の威力が、龍族とは思えない程 弱いそうです。翔ぶと言う事は、結局は風の神霊に力を借りると言う事ですからね。それで翔べないのかと。」
私は、少年を見つめた。
落ちても、落ちても、何度も何度も翔ぼうとする、彼の姿を。
「……弱いのは、いけない事かしら。」
「……え?」
「弱いと言う事は、マイナスの方に捉えられがちだけれど、それは逆に、周りを傷付けられないと言う事でも在ると思うわ。」
私は、くるりと踵を返し、帰路に付く。
「それは、とても良い事だと思うのだけれど……。」