幻獣達が生きる世界、空界。



この世界を守護する役割を担っている龍族として、私は生まれた。



龍族のトップである王の娘――つまり、姫。



水龍の姫、アリィ。



それが、私に与えられた名前であり、役割でもある。



姫である事を、苦痛に感じた事は無い。高貴な者として守られる代わりに、毅然とした態度で立ち、民を慮るのが、私には とても重要な役割に思えるからだ。



護衛の者に囲まれて、民の暮らしを見て回るのが、私の毎日の日課。



その日も、いつもと同じように穏やかな気持ちで村の中を見て回り、ふと気が向いて、近くの森へと散策に入った。



必死に止めようとする護衛達を少し鬱陶しく感じながら、豊かな緑の中で息を ついた時。



「うわぁっ!」



少し離れた所から叫び声が上がり、次いで どさっと何かが落ちる音が聞こえた。



木を挟んで向こう側に見えたのは、5、6歳の龍の子だった。



金と黒のメッシュの髪が目を引く。肩に届くくらいの長さが在るが、服装から見て男の子なのだろう。



どうやら翔んでいる途中に落ちたらしく、腰を擦って呻いている。誰かに殴られたような痣が幾つも在るのが気になった。



「……彼は?」


「雷龍の子です。今年で6歳に なると言うのに、未だに翔べないとか。」



私の呟きに、護衛の1人が答えた。