背中越しの春だった

――でも、何て言えばいいんだろう?


私はぼんやりと考えながら、教師に頼まれた教材を持って渡り廊下を歩いていた。

根拠をはっきり説明できるわけもなく、

まさか「藤はやめたほうがいいよ」なんて言えるわけもなく……。


もやもやと頭の中で、まとまらない考えが絡まりあっていく。

ただでさえ頭が重いっていうのに、教師から押し付けられた世界地図やら資料集やらの教材は、

心底イヤになるくらい重かった。

クラス委員だと思ってコキ使いやがって、と心の中で悪態をつく。



地図を引きずるようにしてのろのろ歩いていると、突然前方から悲鳴にも似た声がした。


「危ない、マッキー!!」

「……って、遅かったか……」


次の瞬間、キャスター付きのイスで爆走して遊んでいた藤たちに突っ込まれて、

私は見事に廊下の端に吹っ飛ばされた。

同じくイスの上に乗っていた藤も、渡り廊下の横の植え込みに放り出されて倒れている。


藤の友人のクラスメイトが慌てて駆け寄ってきて、私に手を差し出した。


「うわー悪い、槙野! ケガしてない?」

「あんたたちね、小学生じゃないんだから……」


特にケガはしていなかったので、私は呆れながらも手を借りて立ち上がった。

ふと横を見ると、藤が笑いながら起き上っている。