「寒いなぁ。神川さん、どこだよ？」


奈桜は寒いせいもあり、ゆっくりと歩いて行く。
明かりは道路の街灯だけ。
こんな所で男と待ち合わせなんて。
『気持ちわりぃよな』つい、一人言が出てしまう。


「あれか？」


運動場の真ん中辺りに人影を見つけた。


「………？ええっ？」


「あっ！良かったぁ。やっと来てくれた。あと少しで凍え死んじゃうとこでした」


頬を寒さで赤くさせ、白い息で嬉しそうに笑う。
一瞬、その一途な可愛さに抱きしめてしまいそうになる。


「何で？何で秋月さんがここにいるの？」


奈桜の目の前にいるのはダンディーな神川ではなく、淡いピンクのコートがよく似合っている秋月さとみ。
どれくらい待っていたのか目も少し潤んでいる。
それが奈桜に会えた喜びの涙だとは奈桜には想像も出来ない。