「ごめん。やっぱり演技の事なら演出の片瀬さんに聞いた方がいいと思う」


「でも、私、奈桜さんに……あっ、それに相談したい事もあるんです！話、聞いて下さい！」


「………頼ってくれるのは嬉しいけど。オレじゃ役不足だよ。うん。オレ、頼りないから。それにさ、嫁さんいるから。個人的に女の子と二人で会えないな。ごめんね。仕事中だから。じゃ」


切れた電話の終了ボタンをまだ押せない。
さとみは奈桜の言葉を頭の中で繰り返す。
『嫁さん』
この言葉が胸を掴んでる。
『嫁さん、嫁さん、嫁さん、嫁さん………』


「それが何なの？」


スマホの画面を睨み付ける。
鼓動が勝手に早くなる。
この怒りが誰に向いているのか分からない。
自分を袖にした奈桜なのか、『嫁』という立場に君臨して奈桜を自分のものにしている水無瀬梓なのか。


「だから何？」