「ありがとう。ほんとにありがとう」


『ありがとう』の言葉しか出て来ない自分がもどかしい。
もっとそれ以上の感謝の言葉がないんだろうか。
梓の顔は泣いているのか笑っているのかよく分からない。
ただ、胸がいっぱいで上手く話せないのは奈桜には分かった。


「やれる事はやらなくちゃ。チャンスは掴むもんだしな」


にっこりと奈桜が笑う。
梓は涙を拭って『うん』と頷いた。


少し離れたところにいた青木がどこか上の方を向いて、頷いたり何か合図したりしている。
目ざとく、それを見た人が側の人に耳打ちする。


「やっぱり、撮影みたい。あの人、なんか、合図してた」


チラッと青木を見て目配せする。


「ほんとだ。映るかな?」


言った後、お互い表情を普通に戻してまた何気ない会話を始めた。



「ほんと。世話が焼けるなぁ。これは貸しですからね。梓さん」


やれやれという顔で青木が笑う。
撮影に見えるように、ちょっとした小芝居だったのだ。