「奈桜………」


見つめる梓に奈桜は優しく微笑む。


「聞いて。……ほんとにごめんなさい。私、結局、この仕事が辞められないのよ。責任とか事務所とか、違うの。私が辞められないだけ。ほんとはそうなの。私なの。私が……」


「それでいいんだよ」


梓の言葉を奈桜が遮る。
梓は『えっ?』と驚いた顔を見せた。


「オレは『女優の水無瀬梓』も込みで、梓が好きだ。女優の水無瀬梓と、今、目の前にいる梓、全てが梓。オレはさ、演じてる梓の事、尊敬してる。オレにはあんなに上手く演じる事なんて出来ないよ。すごいよ。だから、さ?」


梓の目のゆらゆら揺れる涙の雫を奈桜の綺麗な指先が拭った。


「その才能を伸ばさない方が罪だよ」


「奈桜……」


これ以上ない、梓への言葉。
奈桜も言いたかった事をやっと言えた。
奈桜が梓の仕事も才能も認めている事をちゃんと伝えたかった。