「ごめんね。私が悪いの。私が仕事を」


「役は大丈夫？無理すんなよ」


梓の言葉を奈桜が遮る。
分かってる事は言わせたくない、奈桜の優しさ。
あえて謝らなくていい。


「うん。監督がね、私の役をお腹に赤ちゃんがいる設定に変えてくれたの。とても気遣ってくれて。でもね、もちろん無理はしない。それも約束してる。向こうでの病院も紹介してもらった」


「そっか。お腹は？順調？」


「うん。行くのが少し早くなったけど、大丈夫。心臓もね、ちゃんと動いてるのよ」


お腹を優しくさすりながら梓が言う。
まるでお腹の中の赤ちゃんが見えているかのようにいとおしく見つめながら。


「当たり前だろ？生きてんだから」


二人は顔を見合わせて笑った。


穏やかに時が流れて行く。
もっと早くこうなりたかった。
少しでも長く、幸せな時を一緒に過ごしたかった。