梓の目に浮かぶ涙の粒がキラキラと光りながら揺れる。


「行く……から」


もう何を言ってもムダだ。
苛立ちながらも奈桜の心は少しずつ引いて行く。
出来る事なら力ずくでも引き止めたい。
大きなお腹で海外で長期に渡ってする仕事なんて。
何もかも初めての妊娠なのに。
何かあってからでは遅いんだ。

オレが側にいなくていいの?

不安じゃないの?

オレは必要ナイ?


「好きにすればいいよ。オレに何か言う権利なんてない」


疲れたように下を向いたまま奈桜が言う。
もう、梓と目を合わす気力さえ無くなってしまっている。


ほんとはこんな言い方をしたくはない。
梓を傷付けるだろう事も想像出来る。
なのに口から出た言葉は、最低な子供じみたものだった。
奈桜は自分がこんなに器の小さな男だった事が情けなくてたまらなかった。