「……母さん、前にも言ったけど……
わかってないのは母さんの方だよ。
シュウはそんな人じゃない。
私を利用しようなんて考えてなんかない。」

私は懸命に怒りを押さえ、出来る限り冷静に話した。



「ああいう男にとって、あんたみたいな純情な子を騙すのは赤子の手をひねるようなものなのよ。
美幸……私はあんたが可愛いから言ってるの。
このままつきあってても、あんたは弄ばれて働かされてお金を取られるだけなのよ。
もっと良い相手がみつかったらきっとあんたなんてすぐに捨てられる……
それがわかっているから、母さんは……」

「やめて!
私とシュウはそんな関係じゃないって言ったでしょ!
確かに、シュウは働いてないけどそれは身元を保証するものがないから雇ってもらえないからよ。
その代わりに、シュウは家のことを全部やっててくれるし…見たでしょ?
家の中があんなに綺麗になったのは全部シュウのおかげなんだよ。
畑だっていつも手入れしてくれてるし、それに……」

母さんは私の言葉を意地悪く鼻で笑った。



「それがああいう男の手なの!
甲斐性のない男ほど、そういうことをやって女の機嫌を取るものなのよ。
あんたはそれにすっかり騙されてる……
あんただけじゃないわ。
あの和彦だって。
あんたはともかく、あの和彦まで騙すなんて、あいつは相当な男よ。
でも、母さんは騙されない。
きっと、あの男には人には言えないような深い事情があるのよ。
あの男といたらあんたは不幸になるだけ。
美幸……あの男とはすぐに別れなさい!」

「いやよ!
私、シュウとは絶対に別れない!
母さんはなにもわかってないのよ!」

私達の声は静かな店内に大きく響いた。
それがわかっていても、私にはその感情を押さえることが出来なかった。
母さんはそんな私を冷やかな目でみつめた。



「あんたを一人にしたのが間違いだった。
こんなことなら、家にいさせれば良かったわ!
美幸、あんたがどんなにいやだと言っても、母さんは許さないわよ。
もちろん、父さんだってね。
あんな男のことはすぐに忘れなさい。
あんたが一人で暮らしたいならこんな田舎じゃなくて、家の近くにマンションでも借りてあげるから、このまま一緒に家に帰りましょう。」

「いやだって言ってるでしょ!
私は絶対に帰らない!」

何を勝手なことを言ってるんだろう!
許さないなら許さないで構わない。
私は、母さんと縁を切ったってシュウとは別れないんだから…!
固い決心を胸に、私は母さんを睨み付けた。



「……そう、わかったわ。
じゃあ、あの男のことを警察に通報します。
得体の知れない男が、家にい居座わってるって。」

一瞬、心臓が止まりそうになった。
なんて酷いことを言うんだろう……
シュウは記憶を失ってる兄さんの友人ってことにしてある筈なのに、そんな可哀想な人のことを警察に言うなんて……