『それじゃあ、また』
「はい、また」

落ち着いた気持ちで電話を切った。いつもは寂しい無機質な音が、今はそんなに寂しくない。

携帯に目を落とし、慣れた手付きで番号を登録する。

「マ、モ、ル…と」

どのグループに入れればいいのかわからなかったので、とりあえず新しいグループを作った。
どういう関係かもわからなかったけど、悩んだ末にある単語を打ち込んだ。

グループ:チェリー。

「…ださ」

我ながら、自分のセンスに呆れる。
でも咄嗟に出てきた名前にしては、ある程度機転が効いている気がした。

チェリー。サクラ。桜の実。さくらんぼ。

…あたしにぴったりの名前かも。

咲かない桜。いつまでもさくらんぼ。

いくら佐倉さんを好きでも、この恋は決して咲かないんだ。

マモルもそうなのかな。"サクラ"さんに対する思いは、そうなのかな。


ないな、と思い、携帯を閉じた。
こんな考え、マモルに失礼だ。

あたしなんかと同じにしちゃ、失礼だ。


沈みかけた気持ちを必死に持ち上げ、今日は早目に一度家に帰ろうと思った。

家に帰って、今日は一昨日買った赤いワンピースを着よう。
きちんとメイクして、いつものヒールを履いて。

佐倉さん、今日は何時までいてくれるかな。

小さく思い、皆のいるボックスに向かった。