他には……あぁそうそう、まゆみと豆の買出しにいったこともあったなぁ。

 今思えばマスターが気を使ってくれたんだろうが、あの時は店の大事を任されたと思ってそれどころじゃぁなかったからな。

 俺にしてみれば店の味のすべてをこの俺の判断に委ねられたようなもんだったからな。

 そりゃぁもう、使命感と極度の緊張で胃は痛いわ腹の具合も悪くなるわ、頭痛もするし終いにゃ吐き気までといたれりつくせり、ってなもんで。

 かといってまゆみをほったらかしにはできないだろう?

 もちろんきちんと退屈しないように道中気を使ったさ。

 非番を利用してだったもんだから、ちょいと高めのヒールできてた彼女の足を気にかけて途中で何度か休憩をはさんだり、ね。

 ちょいと目をつけてた移動販売型のアイス屋に寄ったり、駅南の交差点にあるベーグル専門店でお昼にしたり……。

 買出しがなけりゃぁなんと楽しいデートだったろうになぁ……。

 買出しとまゆみと、両方への気の使いすぎでその翌日から3日も寝込んじまったものさ。

 あぁ、本当に本当にいろんなことがあった……。



 いやいや、せめて最後はいさぎよくなくっちゃぁな。

 顔を上げて、最後の言葉を聞くとしようじゃぁないか。

「……」

 真っ直ぐにマスターの瞳をみつめる俺。