繋いだ右手だけ、とても熱い。
この熱は宇佐城さんに伝わってしまっている。
そう思うと、気が気でない。
「こっちです」
同じ速度で、だけど、1歩出てリードしてくれるのは宇佐城さんで。
ちょっとだけ引っ張ってくれる。
それだけでまた右手の熱が上がっていきそうだ。
「ここ、です」
ピタリと足を止めた先には、私が住んでいるマンション。
去年建て替えたばかりだから、まだまだ綺麗だ。
「綺麗ですね」
「去年建て替えたばかりなんです」
駅まで徒歩10分、少し行った先にはちょっとした商店街もある。
建て替えたばかりであるのも勿論だけど、最近は割と人気の物件だ。
エントランスまで行き、慣れた手つきで鍵を回す。
その時も、繋がれた右手はそのまま。
25年生きてきて今更だが、自分が左利きで良かったと思ってしまう。
ここからは私が1歩リードする。
エレベーター前までの間、聴こえるのは二人の足音だけで。
ぱったりと喋らなくなった宇佐城さんに、少しの不安がやって来る。
「あ、あの……」
「はい?」
「……もし、私の部屋が汚かったら、申し訳ないんですが宇佐城さんは……」
「俺は大丈夫ですよ」
「いえ!私が大丈夫じゃないんです!」
「まあ、俺は置いてもらえるだけで十分ですけど、りこさんの都合が悪いなら、諦めます」
そう言って、苦笑い。
恐らく、彼が言いたいのは、部屋がどうのじゃなくて、きっと彼氏とかの都合だろう。
「都合は悪くありませんよ」と伝えようとした時、下へと降りてきたエレベーターから人が出てきた。
その瞬間、反射的に右手を離してしまった。
嫌だ、私。
感じ悪い。
出て来たのは、私より少し若いカップル。
こんな遅い時間に見られたのが嫌だったのか、さっと目を逸らして行ってしまった。
そのまま無言でエレベーターに乗る私たち。
先に、言ってしまおうか。
「私はこの前彼氏と別れました」と。
いや、今は言わないでおこう。
第一、訊かれていないんだし。
自分から言い出すなんて、まるで構って欲しいと言っているようなものだ。


