楽しかったカラオケ大会も、フリータイムが終わり解散になる。



もしかしたら、行雲先輩なりに本選への緊張をほぐす為の会だったのかな…なんて思いながら、暮れてきた空を見て歩く。



「小鳥遊!」



そんな俺を引き留める声に、ゆらりと振り返る。



そこには、真剣な顔をした、有ちん先輩の姿。



確か、有ちん先輩は秀吉キャプテンと同じで植木駅付近に住んでて、熊本駅行きの市電に乗ったから、こっちは有ちん先輩にとって家とは逆の筈なんだけど。



「どしたの、有ちん先輩?」



「…………小鳥遊、俺と、1on1してくれんか?」



いつもなら、きっと夕方には走り込みをしている有ちん先輩の、初めての誘い。



明日は東京前乗りだし、断った方がお互いのクールダウンの為になるんだけど。



その、銀フレームの奥の真剣な目と、合宿の時のおじいちゃん監督の『心の奥に眠るもの』という発言を思い出し、俺もきゅ、と顔が引き締まる。



「…俺んち、来ます?」



その返事に、有ちん先輩の顔が少しだけ、傾き始めた陽を吸い込みながら、和らいだ。