「はて、槐の弟君、どないな戦術なんやろかねぇ」



俺についてきた、相手のガードが奥二重で俺の目を見つめ、次の一手を探る。




「いや、割と単純なことしか考えてねっスよ」



その奥二重を見つめたまま、ボールを背中でハンドリングさせる。



すると、相手はハンドリングさせた先の左手へ、ディフェンスの手を伸ばす。



その隙を突いて、俺はダム、と相手の股下へボールをワンバウンドさせ、そのまま体は右から抜き、フロアを走る。



「うわ…なんちゅう技術や。(あんなん、槐かてしっきらんわ。もしかして弟君の方が、父親の遺伝子強くもろとらん?)」



相手のぽわん、と間抜けた声を背に、俺は槐に強いパスを寄越した。



「ナイスアシストやけど…力み過ぎどす、えろう痛いわ」



槐ははんなりとした言葉とは裏腹の素早い動作で、柔らかな下半身を使う。



それはまるで、芸子さんが舞うような光景。



その芸術的にも見える手から、3ポイントのワンショットが放たれた。



放たれたワンショットは、秀吉キャプテンの手を余裕でするり、と飛び越え、無回転で、高く、空中を泳ぐ。



ボールがゴールへ向かう様は、海の中の熱帯魚が巣にしている珊瑚へ帰る姿のように、見るものを幻想的な時間へ誘う。



すとん、とゴールリングを潜ったボールを見送り、俺と槐はコツン、と拳をぶつけ合う。



「次はディフェンス、この一点差、このまま引き摺らせてやろーぜ、おにーいちゃん」



「せやなぁ。椿、かいらしいから、ずっとお兄ちゃんて呼んでくれはります?」



やだよブラコン。槐って兄ちゃんって感じしねーし。とは言えない。試合中でもポロポロ泣き出しそうだもんコイツ。