「今、余計なこつ考えんかった?」



そんな複雑な心境を読み取った有ちん先輩が、苦笑いをひとつ、俺に落とす。



「俺は何も高望みしとらんよ。お前達が勝ち進む手伝いば、俺ん出来る範囲でやりたいだけやし。俺にはもう、こん夏しかなかけん。決勝戦の決勝点、冷泉にアシストする瞬間しか、見えとらんけんね」



この人が、自分の為に戦う欲は、いつ、どこで芽生えるんだろうか。



もっと自分の中で戦って欲しい。強くなって欲しい。我が儘で、いて欲しいのに。



「…どう?少し楽にならん?」



「だいぶ足の力抜けた気がするッス。ありがとう、有ちん先輩」



有ちん先輩が積み重ねた努力は、俺達の才能なんかに比べたらもっと凄いものなのに。誰もが認めてるのに。



何で本人はそれを認めてあげないんだろうなって、いつも思う。



俺には、有ちん先輩自身が自分を、蔑んでいる気がしてならないよ。



「さー、明日も頑張らんし、俺もいっちょ、飯まで寝ようかな」



当の本人は能天気なもんで、座布団を枕に、あっという間に夢の世界へ飛んでいってしまった。



俺もちょっと寝ようかな。起きたら、食欲無くても食べて、次の日に備えなくちゃ。