「ごめんなさい、カノン。……あなたに、護衛を命じるわ」


彼女が謝った理由を考えるほどの余裕なんてなかった。

大きすぎる痛みが深く心を浸食し始めていて、何も考えられない。


俺に向けた彼女の声は、ただの声のまま。

意味を成す言葉にはなれずに、意識の表面を通り過ぎていく。



それでも頭にはっきりと残った、彼女の名前。

クレア・ハーモニア。

彼女が名乗ったその名前だけが、頭の中で繰り返される。

それと同時に、軋むように心が痛む理由をやっと理解した。



────サユは、この王女の身代わりになって死んだのだ。


「……っ」

泣きたくなるほどの胸の痛みに表情を歪めた俺を、彼女は黙って見つめていた。