「サユ」 私の言葉の意味を、きっとカノンは分かっている。 私の幸せを、カノンに託したこと。 だからだろう。 カノンは、哀しそうな表情のままだった。 私は滲んだ涙をこらえ、くるりとカノンに背を向けた。 「……もう行くね。……またね、カノン」 部屋のドアに向かって、歩を進める。 行きたくない。 離れたくない。 そんな想いで止まってしまいそうになる足を、なんとか動かして前に進む。 「……待ってるから!」 ドアノブに手が触れた瞬間、背後から切羽詰まったような声が聞こえた。 思わず、振り返る。