触れた唇が、静かに離れていった。


これ以上ないくらい近い距離で、お互いの甘い視線が絡まる。


……その綺麗なブラウンの瞳が、好きだった。



「……サユ」


どこか憂いを帯びた、優し気な声。


私の名前をまるで壊れもののように大切に呼んでくれる、その声が好きだった。



瞳だけじゃない。


声だけじゃない。


私に向けてくれる笑顔。


誰にだって優しいところ。


どんなにつらいときだって、前を向いているところ。



全部全部、大好きだった。




……だけど。



「……カノン」



私は目の前にいる愛しい人の名前を呼んで、抱き合っていた身体をゆっくりと離す。



「サユ」



もう一度私の名前を呼んだカノンの声は、今にも泣き出してしまいそうなくらい、悲し気な雰囲気に満ちていた。


分かっているのに、今はそんなカノンの悲しみに知らないふりをするしかなかった。