たぶん、その場から動いたのはほぼ同時だと思う。
気付いたときには地面を蹴っていて。
来た道を力いっぱい駆け上がっていく。
「ごめんなさい!通してください!!」
他の人から見ればこんな狭い通路でなに走ってんだって、そう思うはず。
だけど、今は迷惑になるからなんて、そんな考えは全く持ち合わせていなかった。
頭の中にあるのは、
“佐久間に会いたい”
ただそれだけ。
「相原!!」
「佐久間っ」
大会出場選手だけが通れる通路を走っていると、前から走って来る佐久間が見えた。
「……っ」
手が届きそうな位置まで来ると、差し出した右手を思いっきり引かれて、覆い被さるように抱きしめられる。
「……っ、佐久間、」
口から洩れるのは、小さな吐息と佐久間への呼びかけだけ。