脳裏に浮かぶのは“あの時”のこと。
誰もいない体育館で、佐久間と二人っきりだった“あの時”のこと。
『──相原』
耳元で感じた佐久間の吐息と、からみつくような低音ボイス。
すぐ目の前には服の上からでも分かるほどたくましい体があって。
もう、すぐにでも心臓が壊れてしまうんじゃないかと思った。
『俺、こんなことすんのお前にだけだから』
『からかったりなんかしてない。今までも、これからも。全部、本気だから』
……ねぇ、佐久間。
あれってどういう意味?
私だけって?
全部本気って、なに?
『さぁ?自分で考えろよ』
いくら考えても答えなんて出てこないよ。
ねぇ、教えてよ佐久間。
じゃないと私、自分の都合の良い方にばかり考えちゃうよ?
まるで“あの時”のようにクラクラと甘い眩暈がして、血が沸騰しそうに熱くなっていく体。
「……っ、」
そのかすかな変化を、すぐ隣にいる由弦くんが気付かないわけがなかった。
「六花ちゃん?どうしたの?気分悪い?」
由弦くんの手が、そっと私の額に触れる。


